排泄のしくみ
消化吸収されなかった食べ物のかすは便として排泄され、栄養素の代謝後の不要物は尿とともに排泄されます。
便の成分と排泄のしくみ
食物繊維が便の主成分
栄養素は小腸でほぼ吸収されますが、食物繊維は人の消化酵素で分解できないため、大腸へ送られて便の主成分になります。
大腸に消化酵素はありませんが、腸内細菌がいて一部の食物繊維を分解し、酸などを生成します。
酸は大腸の運動を盛んにし、便の排泄を促します。
便のにおいや色の正体
タンパク質は一部未消化のまま大腸に送られ、腸内細菌によって分解されます。
分解物質にはアンモニアなどの有害なものが多く、便やおならが臭くなります。
また、十二指腸に分泌される胆汁の一部が大腸に送られ、排泄されます。
胆汁はビリルビンという黄色い色素を含むので、便は黄色い色をしています。
便の形ができるまで
水分の95%は小腸で吸収され、残りの水分と未消化物の食物繊維が大腸へ送られます。
水分は大腸で少しずつ吸収され、未消化物はだんだん固形状になって直腸に入り、便として排泄されます。
尿の成分と排泄のしくみ
血液と腎臓の連携で原ができる
各種の栄養素は体内で利用されたあと、余分な栄養素や老廃物が血液によって腎臓に運ばれます。
腎臓では糸球体で血液中の物質や水をろ過します。
ろ過されたものの99%は尿細管で再吸収され、残りが尿として排泄されます。
尿の固形物の主成分は尿素です。
尿素はタンパク質の構成成分だった窒素を含む物質です。
とり過ぎた水溶性ビタミンや不要になったミネラルも尿とともに排泄されます。
腸内細菌とは?
大腸には約100兆個、100~500種の細菌が存在するといわれ、有益菌もいれば、有害菌もいます。
これらの菌がバランスよく住みついているときには、免疫機能が高まったりカルシウムの吸収がよくなったりします。
一方、バランスがくずれると腹痛や下痢を起こします。
腸内細菌の集団は1つの臓器とも考えられています。
おもな腸内細菌の種類と数
菌数は便1g当たりの菌数の対数値で示してある。
日和見菌とは、腸内の状態によって良くも悪くも働く菌のこと。
便排出のしくみ
尿排出のしくみ
便は胆石症・胆汁酸塩・胆汁色素と深い関係があり、便の説明と共にします。便(feces)とは(学術向上予備知識編)
大便、糞便、尿(し)などともよばれています。
〔便の性状〕
便の成分には水分が最も多く、全重量の65~85%を占めます。
残りは食物の未吸収残渣(繊維や果物のたねなど)、腸内分泌物(胆汁色素、酵素、粘液など)、消化管粘膜細胞の剥離したもの、白血球などの細胞成分、消化管中へ排泄されたもの(カルシウムや鉄など)、および腸内細菌(多くは死菌)などから成り立っています。
またpHはややアルカリ性であることが多いです。
化学組成の面からみると、糖質やタンパク、アミノ酸はほとんど存在しませんが、野菜や牛肉などの腱、繊維などの消化されにくいものが混在する場合には見いだされます。
なお乳児では母乳栄養の場合には便中にアラニンが多く、人工栄養ではバリンやリジンが多くなります。
いずれにしても、普通の食事の場合には、栄養素はほとんど吸収され、便の大部分は腸内で生じた残渣のみになっています。
便を分析すると、普通は次のような組成です。
図:便の成分
このうち灰分は、カルシウム、マグネシウム、硝酸、鉄がおもなのであって、ほとんどが腸より分泌されたものです。
また窒素成分にはプリン基の多いことが目立ちます。
便の量は普通の食事では1日75~170g(平均110g)ですが、不消化物が多いときには350gにもなります。
このように不消化物を食べると便の量が増加するのは、食物残渣が多くなるとともに、不消化物が腸管を刺激して運動機能をたかめ、消化されるはずのものまでも未消化のままで排泄されるためです。
したがって、これが激しくなるとく下痢をおこします。
しかし不消化物をある程度食べることは便秘を予防するのに役立ちます。
便の色はおもに胆汁色素であるビリルビンが腸内細菌で還元された色になります。
胆汁色素の排泄のないときには胆石症など、便は灰白色となり、同時に胆汁酸塩の分泌もわるいので、脂肪便・無胆汁便となります。
乳児で縁便をみることがありますが、これはビリルビンのまま排出され、空中で酸化されてビリベルジン(緑色)になったものです。
新生児が出生直後に排出する便を胎便といって黒色粘稠である母乳を飲みだして2~3日間は暗緑色の粘液便、その後、鮮黄色の乳液便となります。
便の性状を観察することによって、体調の良否をある程度まで自己評価できます。
排便にさいしては、脊髄の排便中枢(第2~4仙髄にある)の作用によって肛門括約筋や直腸の筋肉が反応しますが、同時に作用する自律神経系(交感神経と副交感神経)の作用も重要です。
四囲の状況が排便に不適当な場合には、大脳の抑制中枢からのインパルスが脊髄の排便中枢に伝えられ、排便反射を一過性に抑制できます。
大脳の抑制中枢が未発達な新生児や脊髄の排便中枢が破壊された患者では、便の失禁状態がみられます。
〔便の異常〕
臨床的に便の異常が問題となるのは、主に下痢便です。
通常下痢便をその成因や性状によって、発酵便、水様便、および脂肪便に分類します。
1・発酵便、発酵性消化不良(dyspepsiadue to fermentation)乳糖、ショ糖、バクガ糖、ブドウ糖、果糖などの発酵性の糖質を小児に与えすぎた場合や、それぞれの消化酵素の欠損あるいは吸収障害があるときには、これらの糖質が腸内細菌、主として大腸菌によって分解され、低級の有機酸を産生します。
この刺激によって腸管の蠕動亢進がおこり、発酵性消化不良便が下痢の形で排出されます。
2・水様便(waterystool,liquid feces)液状(水様)または液状に近い軟便を排出する症状を下痢(diarrhea)といいます。
〔便の異常原因①〕
1)腸における水分吸収の減少。
2)腸管における水分の分泌過多とがあります。
いずれにしてもこれらの場合には大腸の運動能も亢進していますから、排便回数は多くなります。
腸における水分吸収の減少はおもに大腸での蠕動が強く、腸内容が急速に移送されるためにおこります。
この場合小腸の蠕動も亢進していることが多いです。
ただし小腸の蠕動亢進のみで下痢をおこすことはありません。
なお腸内容に水分吸収を妨げる物質(たとえば難溶性塩類塩類――塩類下剤など)を含む場合にも下痢をおこします。
〔便の異常原因②〕
①-2)の原因の水分分泌の過剰はコレラなどにみられるもので、これはコレラ菌による腸粘膜の病変が、腸管の透過性を変化し、組織液が多量に腸内に分泌・排泄されて、腸内容は流動性になります。
一方、この場合には病的刺激が同時に腸管の蠕動を亢進させて、両者の作用によって水様性(液状)下痢便が排泄されます。
以上のような腸蠕動の亢進や腸粘膜の分泌亢進の原因としては、下記が考えられます。
1)腸内容が異常刺激をおこす場合。
2)腸粘膜に病変があって刺激に対して感受性が上昇している場合。
3)腸運動を支配している自律神経機能の異常を伴う場合。
〔便の異常原因②の説明〕
1)は不消化物の大量摂取からくる機械的刺激、細菌毒素または腸内における異常発酵、中毒性物質の摂取などによりおこります。
これらのうち消化不良によるものを、とくに消化不良性下痢(dyspep-tic diarrhea)とよびます。
2)は腸管の炎症や潰瘍のさいにみられます。
また病変の原因が同時に腸壁に異常刺激として作用することが多いです。
3)は副交感神経の過剰興奮による水分の分泌増加と、腸管の運動性の亢進によって下痢をおこします。
〔脂肪便、旨肪性下痢〕(steatorrhea)とは(学術向上予備知識)
1)脂肪便とは1日の便中脂肪含量が成人5g、小児3g以上の場合を、脂肪便といいます。
2)原因:脂肪の吸収不全です。
膵・肝・胆道疾患、胃切除・小腸切除後にみられます。
乳幼児では、乳幼児下痢および栄養失調症などが成因となります。
3)脂肪便と胆汁の作用胆汁のおもな作用は胆汁酸の働きであって、脂肪を乳化し、膵液の脂肪分解酵素リパーゼ(lipase)による消化作用を促進します。
胆汁酸は胆汁内や小腸内のpHでは陰イオンとなり、おもにナトリウム塩として存在し、胆汁酸塩とよばれています。
胆汁酸塩は表面活性作用が強<、かつ親水性が強いので、脂肪を乳化して、脂肪の水滴とリパーゼとの接触面をひろげ、リパーゼが作用しやすくしています。
また脂肪分解によって生じた脂肪酸と結合して、その吸収を促進させる重要な作用をもっています。
したがって、胆汁分泌が障害されると胆石などによって、脂肪の消化吸収はわるくなり、不消化下痢をおこします。
この場合の便を無胆汁便(achylia feces)といい、胆汁色素がないために灰色となり腐敗臭の強い便です。
それは脂肪の消化がわるいと、この脂肪によって糖質やタンパク質が包まれて、消化液が作用しにくくなり、これらの消化までも障害され、さらにそこに細菌による腐敗や発酵がおこるためです。
なお胆汁酸は脂溶性のビタミン(D,K,A)などの吸収にも重要な役目を果たしています。
尿(urine,独Ham)とは(学術向上予備知識編)
〔尿の定義〕
生体の有害物質、不要物質を除き、体液の浸透圧や酸塩基平衡を調節するために腎から排泄される水溶液を尿といいます。
〔尿の量〕
飲食物の量や発汗の程度により大きく変動しますが、健康人で1日平均1.000~2.000mlの範囲内です。
〔尿の性状〕
正常新鮮尿は一種の芳香性臭気をもっていますが、放置すれば細菌による尿素の分解により生じたアンモニア臭が強くなり、また摂取した食物や薬物により特有の臭気が発生します。
放尿直後の正常尿は澄明ですが、放置すると尿路より分泌する粘液に起因するnubecula(雲状浮遊物)や、諸種の塩類(リン酸塩、炭酸塩、尿酸塩)の沈殿により混濁します。
また病的には、血球、上皮細胞、粘液、脂肪および細菌などによっても混濁します。
比重は1.002~1.030ですが、尿量、尿中固型成分の量によって変動します。
尿のpHは4.5~8.0の範囲にですが、普通pH6前後の弱酸性を示します。
しかし、摂取される食餌の種類により変わり、タンパク質などの動物性食品摂取時には酸性側に、野菜などの植物性食品摂取時にはアルカリ側に傾くこのほか、熱性病、激労作後、飢餓時、糖尿病、腎炎など、酸血症をおこしているときには酸性になります。
〔尿の成分〕
1)尿素:尿中に排泄されるタンパク質代謝産物のうち、量的に最も多いのは尿素です。
尿素の排泄量は摂取タンパク質量にほぼ比例し、総窒素排泄量の80~85%は尿素窒素で占められています。
摂取タンパク質量が少ないときには、尿素窒素排泄量は減少しますが、尿素以外の窒素成分は摂取タンパク質レベルにあまり影響されずにほぼ一定であるため、低タンパク食摂取時には、総窒素排泄量中に占める尿素窒素の割合は低下します。
また一方、体内において体タンパク質異化が促進されているときには、尿素排泄量は多くなります。
2)クレアチン:筋肉中にクレアチンリン酸の形で多量に存在します。
そのリン酸がはずれて生じたクレアチンの一部は血中にはいり、血液中の他の成分とともに糸球体でろ過されます。
しかし尿細管での再吸収には、男性ホルモンが関与しているため、このホルモン分泌量の少ない子どもや、女子では正常尿中にも排泄されますが、成人男子では通常排泄は認められません。
3)クレアチニン:クレアチンの分子内脱水により生じ、人の尿中にはかなり多量に排泄されます。
クレアチニンは食餌や尿量などにより直接的な影響は受けず、筋肉量に比例して毎日ほぼ一定量排泄されます。
このことを利用してクレアチニン排泄量は、24時間尿採集のチェックや、ある一定時間内に排泄されたその他の尿中成分の1日排泄量の推定に用いられています。
4)尿酸:核酸を構成しているプリン体の最終代謝産物として尿中に排泄されます。
尿中尿酸の起源は食餌として摂取した肉類由来の外因性尿酸と、体内において合成されたプリンヌクレオチドよりの内因性尿酸の両者が含まれています。
これら尿酸が関節軟骨に尿酸カルシウムなどの形で結石沈着すると痛風の原因となります。
新鮮尿中にはアンモニア含量は少なく、これらの多くは、体内における酸性物質の生成が高まったとき、その中和物質として排泄されます。
しかし放置尿では尿中に繁殖した細菌により尿素が分解されてアンモニアを生じるため、放置により著明に増加し、刺激臭を発します。
5)その他:これらのほかに、少量のアミノ酸、馬尿酸、硫化物、ホルモン、ビタミン、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩などが排泄されます。
図:成人24時間尿正常値
コメント